加水分解でベトベトになったマットブラックのヘルメット(SIMPSON M30)をスプレー缶のガンダムカラーでリペイントする

塗装楽しいけど、下処理つらい

結論から言おう。ヘルメットに限らず、マットブラックは選ぶべきではない。絶対にだ。


ここに、SIMPSONの名作、M30というヘルメットがある。
本記事は、このヘルメットをリペイント(再塗装)するドキュメンタリーである。

SIMPSON M30(マットブラック)
購入当時。かっこいいでしょ

いいヘルメットなんだよM30は

筆者は3年前、このSIMPSON M30を購入した。数多のヘルメットの中から、フィッティング、スタイル、安全性で選ばれた、いわばベストオブヘルメットフォーミーである。知らんけど。

ポチったときの高揚感、箱を開封するときの胸の高鳴り、初めてかぶったときのあれ?小さいかも?など、いちいちドキドキさせてくれるヘルメットだ。

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SIMPSON M30
大切に保管されるSIMPSON M30

さて、そんなM30ですが、3年という長い(?)月日の中で、きちんとお手入れをしているとはいえ、さすがに小キズも増え、ややくたびれ感も見えるようになってきました。

ん?くたびれ感?いや

ちょっとまって

きったね

無理

粉っぽい。ほこりいっぱい。しかもベタベタ。ネチャネチャ。

これは・・・・・・・

ペロッ・・・・・・加水分解・・・マットブラックの宿命・・・

でもまだ買ってから3年やぞ?1000日後に加水分解するヘルメットなの?なんなの??映画化するの???

ゼッタイきれいにしてやる!

定番の加水分解のベタベタ除去ハウツーといえば、無水エタノールで拭くなどが良く知られています。

劣化部分をアルコールで溶かして取り去るというものですね。

ということでやってみたんですけど、まったく歯が立ちませんでした。
拭いた瞬間はそれなりにきれいになります。でも表面のアルコールが揮発すると、そこにはまたベトベト面が。キリがありません。ゾンビかよ。

無水エタノール500ml
無水エタノールよ、君は悪くない

無水エタノールP 500ml

しかしベタベタなままかぶりたくないし、ヘルメットはこれひとつしか持っていないのでバイクに乗れない・・・

よし、こうなったら塗るしかない・・・
ベトベトと決別して、かつての輝きを取り戻すんだ・・・・(もともとマットだけど)

とりあえず分解

パッドを外されてばらばらになったSIMPSON M30

シールド、インカム、インナーパッド、チークパッド。外せるものは全て外しましょう。
写真右奥のインナーパッドが一番外しにくかったです。

おでこ部分のSIMPSONのシールも剥がしてしまいます。
シールはめちゃくちゃ剥がしやすいです。IKEAの値札シールの1000000倍剥がしやすい。
シールを剥がすと下から美しいサラサラスベスベのマットブラックの塗装面が現れました。なつかしい手触りだあ。

塗装下処理前のSIMPSON M30
何だこの背景は

塗装の手順

今回はマットブラックのM30をいい感じのグレーに塗装していきます。

手順はこんな感じ。概ねバイクのタンクと同じ塗装、同じ手順です。

  1. 塗装剥がし
  2. 脱脂・マスキング
  3. プライマー・サフ・パテ盛り
  4. 本塗り
  5. ウレタンクリア
  6. 水研ぎ
  7. コンパウンド

塗装剥がし・・・のはずが

まずはこのべたべたマットブラックを剥離する作業から始めます。
#240くらいの耐水ペーパーでこすればいいんでしょ。ハイハイ。
ゴシゴシ・・・(ネチャァ)

えっ・・・

ネッチャネチャでペーパーかからないw

このネチャつきをどうにかしないと先に進めません。まいったな。

ネチャつき除去として、ガムテープ、無水エタノール、市販の塗装剥がし、除光液、パーツクリーナー、などいろいろ試しましたが、結局エタノールで拭いて、ネチャつきが軽減されたところでペーパーをかける。という流れに落ち着きました。

耐水ペーパーは#240→#400→#800。
かなりの苦行でした。およそ15時間くらい。数日に分けて作業したので、もしかしたらもっと時間がかかっているかも。

細かいところ・塗膜が厚いところはフラップホイール#120で塗装を削りました。が、勢い余ってFRPにまで達してしまい、舞い上がったガラス繊維が太ももや首に刺さるというステダウンイベントが発生。

みなさん、作業するときは裸はよくないです。服を着ましょう。

塗装を剥がしたSIMPSON M30
塗装剥がし終了。どう見ても髑髏(しゃれこうべ)

脱脂・マスキング

さて、プラサフを吹く前に簡単に脱脂をしておきましょう。と言ってもパーツクリーナーで拭くだけですが。
失敗したくない人はちゃんとシリコンオフを使うといいと思います。

マスキングは、塗装しないゴムパーツとホール、あとエアインテークのメッシュ部分に施します。

マスキングを施したSIMPSON M30
メッシュ部分には厚紙を滑り込ませた

プライマー・サフ

プライマーには安定の染めQ「ミッチャクロン」、サフはSOFT99の「ボデーペン プラサフ グレー」を使用します。

本塗りのカラーがグレーなので、塗りムラがわかるように白サフを選んだほうが良さそうですが、今回選んだ塗料が「ガンダムカラー MSグレージオン系」なので、隠蔽力(不透明度)が低めっぽいという事前情報にビビって、万が一透けても大丈夫なようにグレーサフにしました。

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さっそくプライマーとサフを吹きつけていきます。

1回目のプラサフを塗ったSIMPSON M30
プラサフ1回目

これはひどい・・・

当然ですが、フラップホイールで削りすぎた部分は凸凹になりました。単色になるとよくわかりますね・・・
それにピンホールもたくさん。

このまま本塗りしてしまうと仕上がりが大変なことになるので、パテで補修していきます。

パテは定番のSOFT99のうすづけパテを使用しました。ラッカーパテなので硬化が60分と早く、重宝します。

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パテ盛り→硬化→水研ぎ→乾燥、これを3回繰り返してようやく納得のいくなめらかな下地が完成しました。
パテだけで1日がかり。塗装って本当に大変。

パテで凹みを埋めたSIMPSON M30
色んな角度から光をあてて表面の凹凸を確認します

もう一度マスキングし直して、プライマーとサフを吹きます。

2回めのプラサフを塗ったSIMPSON M30
サフ2回目

だいぶマシになりましたが曲面の凸凹は完全には消せませんね・・・。素人仕事の限界かもしれません。
途中焦ってプラサフを厚塗りしようとして液垂れさせてしまいましたが、#1500の耐水ペーパーでならしました。

塗装前下処理を終えたSIMPSON M30
横から見たらこんな感じ。割と凸凹

仕上げに全体を#1500の耐水ペーパーで軽くならしてザラつきを取ったら下地作り完了です。

本塗り

さて、ここからはいよいよ本塗りです。
塗装やってる!ってイメージはまさにこの本塗りの工程ですが、実際の塗装作業にかかる時間のほとんどはここに至るまでの下地作りなんですよね。

本塗りはとにかく少しずつが大原則。焦ってもろくなことになりません。
塗り始めはヘルメットのフチから薄く、徐々に徐々に塗り重ねていきます。

本塗りの塗料はガンダムカラーのスプレー缶を使用します。
ガンダムカラーはMr.COLORと異なり、アクリル系”ラッカー”ではないただの”アクリル樹脂”なので、耐久性の面でやや不安が残るのですが、しっかり乾かして上からウレタンクリアーを吹けばヘルメットに使っても大丈夫だろう、という楽観的思考で採用しました。

ガンダムカラースプレーMSグレージオン系
ガンダムカラー MSグレージオン系

このガンダムカラー、アクリルではあるものの、市販品のスプレー塗料の中では、抜群に男心をくすぐるカラーラインナップを揃えているので、この缶スプレーとウレタンクリアの相性が良いとなれば、エアスプレーガンを使わない簡易DIY塗装の色表現の可能性がぐっと広がるのではないか、という筆者の夢を背負っています。

今回はMSグレージオン系というカラーを選択。ファントムグレーと迷いました。

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塗っていきましょう。夢、叶えよう。

エアダスターでゴミ飛ばし、捨て吹き、塗り、二度塗り、三度塗り。
およそ30分、あっという間に終了。
アクリル塗料のスプレーをろくに使ったことがなかったので、重ね塗りの間の乾燥時間がわからなかったのですが、5〜10分ほどで表面のテカリが引いたタイミングで塗り重ねました。

ガンダムカラーは2缶使いました。1缶だと足りなかった。
色は三度塗りでイメージ通りのグレーになりました。ウレタンクリアーでテカテカにするんですけど、半ツヤ仕上げもかっこいいですね。ジーク・ジオン

ちょっと脱線しますが、一度塗りと二度塗りを比較してみましょう。
プラスプーンの左半分が一度塗り、右半分が二度塗りです。
ちなみに両方下地にプラサフを吹いてます。

光を当てると、やはり二度塗りのほうが発色がいいですね。そして、光に透かすと差は歴然です。
色をきちんと出そうと思ったら、二度塗り三度塗りをしないといけないことがよくわかります。

さて、本題に戻ります。
本塗り後は、しっかりと1週間かけてアクリル塗膜を硬化させていきます。
ここでの硬化が甘いとウレタンクリアー後の塗装縮みの原因になります。そうなったら剥離からやり直しです。絶対に嫌だ。
はやる気持ちをおさえ、1週間待ちます。

ウレタンクリアー

さて、待ちに待った楽しい楽しいウレタンクリアーのお時間です。みんな大好き2液ウレタンです。
安定の実績で選ばれたSOFT99ウレタンクリアー。

塗装に使用したウレタンクリアー

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ウレタンクリアは液垂れさせないように、均一に塗り重ねて、とにかく厚塗りします。
万が一、スプレーを離しすぎてゆず肌になってしまっても、厚塗りさえしておけば研磨の余地があるので、リカバリーできるからです。

それから、屋外での作業になるので、虫や砂ぼこりをくっつけないようにしましょう。

手順は、エアダスターでゴミ飛ばし、捨て吹き、塗り、二度塗り、三度塗り、四度塗り、五度塗りまでいきます。

ウレタンクリアーを塗ったSIMPSON M30
ウレタンクリアーを塗ったSIMPSON M30

ではさっそく塗りましょう。

三度塗りあたりからだんだん艶が出てきます。液垂れを恐れて缶を離すとザラザラになってしまうので20cmをキープします。
重ね塗りの間隔は15分くらい。ここで焦ってガンガン重ねると液垂れします。

今回は無事、液垂れすることもなく五度塗りまでいけました。
いやあ、焦らず待つって本当に大事ですね。

ウレタンクリアーのスプレー缶の残量が10%くらいになったので終了。
ウレタンに限りませんが、最後の最後まで使うとスプレーの霧がきれいに出なくなり、液飛び散りの原因になるので、残り少なくなってきたら潔く吹付けをやめたほうがいいです。

完全にゆず肌ですが、無事に厚いクリア塗膜ができました。
研磨する前提なのでゆず肌上等です。

ウレタンクリアーを塗り終えたSIMPSON M30
5時間おいて、マスキングを剥がしました

ウレタンが完全硬化してしまう前にマスキングを剥がしておきましょう。10時間以内くらいで剥がせば大丈夫だと思います。表面が軽く乾いたくらいの頃合いが作業しやすいです。

あとはしっかり硬化。また1週間待機。

水研ぎ・コンパウンド

すべての塗装が終わり、ウレタン塗装のクリアー層をしっかりと硬化させたら表面を耐水ペーパー(#1000・#1500・#2000)で研磨します。
この時、角などのエッジ部分は研磨を少なめかつ丁寧に行います。クリア塗膜が極厚とはいえ、角の部分は研磨にすごく弱いので簡単にクリア層を超えて本塗り層まで到達してしまいます。

表面の研磨をして白っぽくなったSIMPSON M30
研磨終了。まだら模様みたいなテカリが消えたら塗膜が平らになったサイン。

せっかくテカテカになっていたクリアー層は研磨によってくもります。なんだかもったいない気もしますが大丈夫です。
この工程はクリア塗膜をとにかく平らにするのが狙いです。絶対にやったほうがいいです。

その後、番手を上げながらコンパウンドで磨いていきます。
横着をして電動ドリルにバフを付けてガンガン研磨していたら削れた金属粉が熱を持ってウールバフと一部の表面が若干焦げました。もっと丁寧にやろう。

ポリッシャーバフ 電動ドリル用 – Amazon

とはいえこのコンパウンド、手作業だと滅茶苦茶時間かかるしバフがけほどの艶が出ないんですよね・・・
専用のポリッシャーを買うのが一番ですね。

コンパウンドがけをおえてつやつやになったSIMPSON M30
コンパウンドがけをおえてつやつやになったSIMPSON M30

使用したコンパウンドはこれまたSOFT99です。どこでも手に入る3本セットのお試しサイズのやつです。
極細は使い切ってしまっていたので、細目・中細を使用しました

SOFT99 コンパウンドトライアルセット – Amazon

ということで研磨終了。全部で4時間くらい。

表面をアップで比較してみましょう

やっぱり研磨すると映り込みの明瞭度が随分変わりますね。

雑な仕事のせいで研磨後の磨き傷がついているので、鏡面を目指すなら極細や液体コンパウンドで磨き傷を除去しなければなりませんが、筆者はこれで満足です。

これにて研磨終了。

完成

あとはゴム類をシリコンスプレーで拭き上げたら完成です。
外したインナーパッド・シールド・ステッカーを戻しておきましょう。

なお、SIMPSONのステッカーは再利用します。粘着力が下がってしまったので水性ボンドで強化しました。

ガンダムカラーとウレタンクリアーで塗装されたSIMPSON M30
完成しました

やったあああああああ終わったーーーーーーー

長かった・・・・
ようやくリペイント全工程が終了しました。

グレーに塗り替えたらシールドをスモークにしたくなりました。(標準はクリアシールド)
買っちゃおっかなー

2021年12月23日追記
買っちゃいました。

SIMPSON M30のシールドをクリアからライトスモークに交換しました|KYONOHALKYO


まとめ

加水分解に侵されてネチャネチャになったマットブラックと決別し、新たにツヤツヤグレーの装いとなったSIMPSON M30。
手間はかかったけど、買い替えよりもぐっとリーズナブルに復活できてよかったです。

仕上がりは、ショップに頼むようなクオリティからは程遠いものの、ギリギリ妥協ラインをクリアしているので、これでしばらく使ってみようと思います。
塗装DIYの楽しさを再認識すると同時に、剥離作業や下地づくりの大切さを思い知った塗装でした。

かかった金額はおよそ6,000円。かかった時間はもうよくわからん。

おわり🏆

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